ケーススタディー
ケンブリッジコンサルタンツは、成層圏から世界の隅々まで超高速5Gを届けるという壮大なプロジェクトにおいて、画期的なブレークスルーを実現しました。Stratospheric Platforms Limited社(SPL社)と協業し、地上ネットワークよりも安価で広範囲に高性能な5Gカバレージを実現する航空衛星通信アンテナを開発したのです。
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成層圏でのブレークスルー
アンテナは3㎡の大きさで、20,000mの上空から、広範囲に、もしくは非常に小さなエリアに高性能な5G電波を届けます。中型ワゴン車一台分と同じ重さで、ゼロエミッション航空機に搭載可能です。SPL社の革新的な成層圏プラットフォーム(high-altitude platform/HAP)と通信システムの中核を担う、重要なコンポーネントとなりました。
画像:開発当時の実物大アンテナ
5Gで人々を接ぐ
SPL社のビジョンは、成層圏を利用してモバイル通信の経済性を再構築し、今まで大都市でしか実現できなかった5Gを可能な限り高速で、すべての人々に提供することです。筆頭株主、技術パートナー、またローンチカスタマーでもあるドイツテレコム社と提携し、SPL社は無人ゼロミッション飛行隊を組成すると共に、既存の携帯電話網および直接デバイスに5Gを提供する計画を立てています。航空機は独自の水素動力システムを採用することで、耐久性を向上しつつも、環境への影響や騒音問題に配慮しています。
類を見ないチャレンジ
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世界初の航空衛星通信
SPL社のビジョンにおける最大の難所は、ボーイング747型機より150倍軽い航空機に搭載可能な上、成層圏における過酷な環境の中で9日間継続して飛行できる、前例の無い通信システムの開発でした。途方もない距離を超えて広域に高性能5Gサービスを提供するという重要なミッションを果たし、かつてない航空衛星通信を可能にするには、大型で高性能なアンテナが必須だったのです。
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世界最大のアンテナ
画期的な試作では、今まで想像すらできなかったことを実証しました。開発時のアンテナは3㎡で、100万個以上のパーツで構成され、480個の信号を個別に送ることで、直径140kmの地域に均等に高性能5Gを提供します。「成層圏を飛ぶ巨大基地局」は、トータルで100Gbpsを超える帯域を提供し、数百の地上基地局に匹敵する範囲をカバーすることができます。
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実証された性能
技術の粋を集めて作成した8分の1スケールですべての機能が動作する試作では、技術上の難題を克服できることを飛行シミュレーションで確認し、独自のモジュール設計によりシームレスな拡張性を実証しました。試作機に装備された4個のタイルを高度に較正することで、非常に高い精度でビームを発信し、飛行中においてもレーザーのような高い精度を維持できることが実証できました。現在開発中の商用機には32個のタイルを搭載予定ですが、実現に向けて道を切り開いたのです。
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黄金比率
上空にセルを配置することで、サービスプロバイダーはエンドユーザーの需要に合わせて位置と出力をダイナミックに変更することができます。配置の柔軟性を検証した結果、フィボナッチスパイラル(数学界や自然界によく見られる模様)により従来の六角形のセルプランニングと比べて、既存のMassive MIMOより効率的にスペクトルを再利用でき、総トラフィックパフォーマンスを15%改善できることが判明しました。
デジタルビームフォーミング
ビームフォーミングの大規模な完全デジタル化は斬新な概念です。アンテナが受信範囲を細く分割できるようになり、村、道路、鉄道など特定の受信対象に合わせた精確な発信が可能となります。サービスプロバイダーは個々の電車や 自動車などターゲットを絞って、ユーザーを追跡しながら携帯電話サービスを提供することができるのです。左の映像では、国境に合わせて受信範囲を成形したデモをご覧いただけます。
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成層圏で耐えうる設計
低抗力航空機から人間の呼吸ほどの穏やかな気流で放熱することは、容易ではありませんでした。革新的な冷却システムを発明し、アレイに均等に空気を流すと同時に、高表面に気流を最小限に抑えるよう設置された低質量ヒートシンクを直接空気冷却しました。
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軽量化の成功
アンテナの性能を落とさずに軽量化および超薄型化することは、重量わずか3.5トンの機体が一週間以上飛行を継続する為に非常に重要でした。120キロという軽量の高性能アンテナにより、濃度が海面の10%しかない非常に薄い成層圏の空気の中で、SPL社の航空機が簡単に揚力を得ることができるのです。
画像:アンテナの完成予想図
アンテナの開発と検証プロジェクトの成果は、設計基準を上回る素晴らしいものとなりました。ケンブリッジコンサルタンツの優秀なチームとのコラボレーションは、本プログラムのハイライトのひとつと言えます。
アンテナがもたらす効果
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5億人の新規顧客
世界のほとんどの地域では、高速モバイル通信に断続的にのみ接続可能か、もしくは全く接続できていない状況となっており、SPL社との協業により解決を目指す世界的な課題となっています。SPL社の推計では、成層圏プラットフォームシステムは5億人以上に高速モバイル通信を提供でき、カバレージ格差埋め、更にはeヘルスや機械の遠隔操作など、新たな産業用5Gの活用事例を開拓することが期待されています。本格的なサービスの展開は、2024年にドイツからスタートする予定です。
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カバレージコストを低減
今回開発したアンテナにより、需要に応じて即座にサービスを展開したり、ビーム形状や位置を柔軟に変更することが可能です。その上、地上で基地局を整備するより安価で、環境への影響も最小限に抑えることができます。概算では、イギリス全土に5G通信サービスを展開するためには数万台もの地上基地局が必要とされるのに対し、成層圏プラットフォームを活用すれば航空機を約60機飛行させることで同じエリアをカバーすることができるとされています。
画像:グーグルランドサット/Copernicus Data SIO、アメリカ海洋大気庁、アメリカ海軍、アメリカ国家地理空間情報局、GEBCO(大洋水深総図) IBCAO
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地図上で受信範囲を「塗る」
成層圏プラットフォームシステムは、自動運転の可能性を引き出すために必要不可欠な高速、安全、そして信頼性の高いモバイル通信を提供できます。コントロール可能なビームフォーミングにより、例えば個別の車両に合わせて運送ルート上で「塗る」ことで受信範囲を設定したり運行中に変更するなど、並外れた柔軟性を可能としています。左図は、英国の全長117マイルのM25環状高速道路を、ひとつの5Gアンテナでカバーするモデルを示しています。
画像:グーグルUKマップデータ©2020