社会変革を導く自律型非地上系ネットワーク

作者 ステュワート マーシュ | 2024年7月19日

非地上系ネットワーク(NTN)は、どのような環境でも企業や人、機械を相互に接続することで通信の世界を変革すると謳われています。ここでの課題は、ユーザーエクスペリエンスを犠牲にせずに高度なコネクティビティを実現することです。この課題への当社のソリューションは、AI駆動の自律ネットワークの導入です。

NTNの複雑さを克服するためのゲームチェンジャーになるのが自律ネットワークです。これによって高度な制御が可能となり、コスト効率も高まり、RF干渉の低減から高速移動中のユーザー端末の性能最適化まで全ての面で性能を改善できます。しかし、そのような性能の実現に必要とされるレベルの自律性を達成するのは容易ではありません。待望されるLevel 3+の自律ネットワーク実現に向けて、通信サービスプロバイダ(CSP)、機器ベンダー、研究者が取り組みを続けています。最新のホワイトペーパー、「 自律ネットワークに向けた競争において先行する」で示したように、当社は次のレベルの自律ネットワークに必要な技術の開発にディープテックの力を活用しています。

ディープテックとは、簡潔に言えば、革新的な科学的知見や技術を活用して世界を変えるイノベーションを実現させるという考え方です。ディープテックがビジョンを現実化するのです。ここでは、NTN市場を変革し、コネクティビティの新時代を切り拓くという取組みをご紹介します。

Level 3+ネットワークの自律動作についての詳細に入る前に、その必要性を確認しておきましょう。

自律NTNのメリット

まず、NTNというのはどういうものでしょうか。この記事の文脈においては、NTNを地上ネットワークの拡張と捉え、地上の空間に留まらず宇宙空間までをカバーする無線通信システムと考えます。低軌道(LEO)には現在数千もの人工衛星が存在しており、さらに新規のネットワークも多数計画されています。これらのコンステレーションの中には専用のユーザー端末で接続を独占的に使用するものもありますが、市販のユーザーデバイスを使用する標準ベースのコネクティビティへの移行が加速しています。この3次元のコネクティビティは、近い将来、 成層圏から5Gのビームを発信する 成層圏プラットフォーム(HAPS)で増強されることになります。

NTNの領域では、通信事業者にいくつかの課題が突きつけられています。1つはネットワークのより高いパフォーマンスを引き出す方法です。従来技術はどれも性能の限界に近づいているため、利用可能な帯域幅を利用して性能と信頼性を改善するための新しい方法が、オペレーターに求められています。この技術的課題に加えて、オペレーターがいかにしてコストを低減しながらサービスを改善するかというビジネス上の課題も存在します。

ネットワークの管理に関しては、陸上(地上系)か空中(非地上系)かにかかわらず、統一的なインターフェースでネットワークを統合することにより、運用の合理化、効率向上、信頼性の高いサービスの継続的提供が可能となります。

この目標を達成するための鍵は、相互接続性、拡張性、適応性を考慮してシステムを設計することです。これにより、ネットワークが現在および将来の課題の両方に柔軟に対応できるようになります。これは、打ち上げコストと資産の運用期間を考慮すると、NTN にとって非常に重要となります。

そして、高度なAIを活用した自律ネットワークが、この点において極めて重要となります。AIを利用すれば、自己構成、自己復旧、自己最適化が可能な高性能ネットワークを構成できます。

即ち、AIによって次の内容が実現します。

  • ネットワーク最適化のための予測分析
  • 動的ルーティングと接続先切り替え管理
  • 故障検知と自己復旧
  • セキュリティ強化
  • カスタマイズと個別対応
  • 複数の技術標準やプロトコルの調和

この結果得られるものは何でしょうか。手動制御のシステムではエラーが生じやすく、応答性が低いのに対し、AI駆動の自律ネットワークでは、リソースの使用を動的に最適化することによって、コスト効率と性能が高まり、接続元の状況に依存せずユーザーエクスペリエンスを最適化できます。

ここまでで利点を確認しましたが、ここからは技術の開発に向けた当社の取り組みをご紹介します。

ケンブリッジコンサルタンツでのAI応用開発とユースケース

当社では、ディープテックのアプローチによるAI応用の自律ネットワークの開発を積極的に進めています。最新の自動化技術を高度なAIとMLのモデルと統合し、ネットワークがリアルタイムで学習、適応し、性能を最適化できるようにします。

こうした技術は、自律化を実現するような実際的なソリューションの開発において重要な役割を果たし、自律ネットワークが提供する価値の獲得につながります。

AI応用によるサービス品質の予測と評価

通信ネットワークは、コストの増加や他のユーザーに悪影響を与える過剰なリソースを割り当てることなく、各ユーザーに十分なリソースを割り当て、最高のエクスペリエンスを提供するために、効率的に動作する必要があります。ところが、ユーザー エクスペリエンスの品質を測定するのは簡単ではありません。スループット、通信の切断、信号品質(「バーの数」)などの旧来の尺度はあまり精度が高い情報ではなく、ユーザーが実行しているアプリケーションとのやりとりやユーザーのデータの検査などの代替手段は、実装が難しく、プライバシーに関する懸念が生じます。

このニーズに対応して、ユーザー体験をリアルタイムで正確に予測できるAIエージェントを、O-RANネットワーク実装内で実行するxAppとして開発しました。このエージェントはRAN(レイヤー1~3)内の標準的なデータで動作し、ユーザーのデバイスの改造や特別なやりとりは必要ありません。自律ネットワークの一部としてデプロイすると、このエージェントはリアルタイムでリソースの使用とユーザー体験とのバランスを取り、利用者の使用性をカスタマイズして改善します。

これにより、NTNを含む多様なシナリオで顕著なメリットが生まれます。たとえば、よりスピードが要求されるシナリオとして、災害で地上のネットワークが分断されたような場合、緊急対応状況の中でNTNが重要な役割を果たします。緊急サービス向けの通信を優先するようにAIエージェントがネットワークリソースの割り当てを修正し、救援や復旧の作業に役立てることで、命を救い災害の被害を最小限に食い止めることもができるでしょう。

サステナブルなネットワークの自律動作

エネルギーのコストを低減してサステナビリティの目標を満たすためには、エネルギー効率を最大化するソリューションが切実に必要です。モバイルネットワークでは複数の層でサービスが提供され、カバレッジ層が常時アクティブな状態を保って常時オン信号の情報を送信する一方で、キャパシティ層によって追加の帯域幅を補強するということがよく行われます。

当社ではネットワーク中の各々のセルの負荷を予測するAIエージェントを開発しています。これらの予測を使用すると、予測されたスループットがカバレッジ層のみで実現できる場合、セルは自動的にキャパシティ層の電源をオフにできます。この技術によって、ユーザーの密度や利用パターンのタイプを予測できるため、サービスを低下させることなく、ネットワークのエネルギー効率とサステナビリティが飛躍的に改善されます。たとえば、衛星通信の送信機は大量のエネルギーを消費することが知られています。要求が低く一部の送信機をオフにできるときにはAIがそれを予測できるため、高価な衛星通信機器の寿命が延長され、サービスの維持に必要なエネルギーが低減します。宇宙空間での運用では利用可能なエネルギー源に制限があることを考えると、これは非常に重要なことです。

干渉管理の改善

自律ネットワークは、干渉の管理についても効果を発揮します。セル間干渉(ICI)は、有効容量が低減し利用者の使用性悪化につながるため、ネットワークの性能に大きな悪影響を及ぼします。

従来は、ICIを緩和するための技術は周波数ドメインと時間ドメインを主眼とし、ユーザーごとに別々の時間や周波数で通信するようにしていました。最新のヘテロジニアスネットワーク(HetNet)ではより総合的なアプローチが必要となります。このタイプのネットワークでは、地上ネットワーク内のカバレッジ間のギャップを埋めるためにHAPSが使用され、ネットワーク構成がより動的になるため、継続的な再構成が必要とされます。

当社は、AI が利用者の現在地や移動先を予測し、必要に応じてセル間で電力をシフトすることで、ネットワークの自己干渉を最小限に抑える方法を模索しています。 シミュレーションツールの利用により、調査結果を相互変調、周波数計画、ニューラルネットワークといった既存の抑制手法と組み合わせて、利用可能な各手法の長所と限界を比較し、この技術を既存のHAPSや5Gの開発に統合します。

AIを活用すればHAPと地上局の間の連携をインテリジェントに管理することも可能で、周波数やパワーレベル、ビーム方向を調整してICIを最小化できるため、非常に有益です。総合的なネットワーク性能を損なわず、安定した接続性を保ちながら、両方のシステムの共存が可能になります。

当社では、ディープテックのイノベーションを通じて、お客様が自律NTNの真の価値を手にし、その機会を捉えられるようご支援します。AIを活用してネットワークのリソースをインテリジェントに管理することで、高速で安定した接続性を、場所を問わず多くの人々に届けることができます。これは当社の活動のごく一部分で、この他にもお客様が市場で先行するためのご支援を多くのテーマで実施しています。ビジネス機の機内接続でオフィス並みの接続性を実現したSmartSky社との画期的な成果、成層圏から5G通信ビームを発信するStratospheric Platforms(SPL)社との協業など、当社は実践的かつ戦略的な知識を以てお客様のネットワークのレベルの向上に貢献してきました。

いかなる遠隔地でも顧客に高品質なカバレッジとサービスを届け、障壁を取り除き、さらに多くの人をデジタルの世界につなげられるよう、ケンブリッジコンサルタンツがご支援できます。是非、当社にアクセスしてご確認ください。

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